私たちの購買行動やコミュニケーションのあり方を劇的に変えつつある「生成AI」。ビジネスシーンでは業務効率化やコスト削減の文脈で語られることが多いこの技術ですが、マーケティングの本質的な変化はどこにあるのでしょうか。
2025年12月22日、日経BPより発売された一冊の書籍が、その答えを鮮やかに提示しています。コミュニケーション・ディレクターであり、「ファンベース」の提唱者として知られる佐藤尚之(さとなお)氏の新著『AIに選ばれ、ファンに愛される。〜変わる生活者とこれからのマーケティング〜』です。
本書は発売前から大きな注目を集め、Amazonでの予約が殺到したことから、発売日を待たずして重版が決定しました。かつて『明日の広告』でインターネット時代の広告の終焉を予見し、『ファンベース』でSNS社会の生き残り戦略を解いた著者が、満を持して「AI時代のマーケティング」の羅針盤を書き上げました。
AIによって誕生する「世界一賢い生活者」
著者の佐藤氏は、AI時代における最大の変化は「AIが仕事をどう変えるか」ではなく、「AIが生活者をどう変えるか」にあると指摘します。
AIが日常に溶け込むことで、生活者は膨大な情報から自分に最適なものを瞬時に見つけ出し、高度な比較検討を行うことができるようになります。著者はこれを「世界一賢い生活者」の誕生と呼びます。彼ら彼女らに対し、従来の「煽り」や「押し付け」の広告、あるいは小手先のプロモーションはもはや通用しません。これまでのBtoC(企業対消費者)という一方的な構図が崩壊し、マーケティングは根本からの変革を迫られています。
生き残るための2つの選択肢:AIルートとファンルート
本書では、この「世界一賢い生活者」だらけの世界で、企業やブランドが選ばれ続けるための道筋として、2つの集約されたルートを解説しています。
一つは、**「AIルート(AIに選ばれる道)」**です。 生活者がAIを代理人として買い物を任せるようになる未来、ブランドはまず「AIに推薦される」存在にならなければなりません。そのためには、アルゴリズムに評価されるための信頼性(TRUST)と、AIが認識可能なセンス(SENSE)をどのように実装していくかが重要になります。
もう一つは、**「ファンルート(ファンに愛される道)」**です。 どれだけAIが進化しても、人間の感情や情緒的な繋がりは代替できません。むしろ、AIによる最適化が進めば進むほど、人間的な温かみや個別の文脈に基づく「ファンベース」の重要性は高まります。著者は、独自のファンベース理論の集大成として、AI時代に適応した新しいフレームワークを本書で初公開しています。
この2つの道は、どちらも決して平坦な道ではありません。しかし、両者を高い次元で融合させ、「選ばれ続ける」循環(シナジー)を生み出すことこそが、これからのビジネスパーソンに求められる必須のスキルであると説いています。
新指標「顧客幸福度」がビジネスの成否を分ける
また、本書ではAI時代の新しい指標として「顧客幸福度」を提唱しています。単なる効率や売上だけではなく、その商品やサービスを通じて顧客がどれだけ幸福になったか。この視点を持つことが、ファンベース経営の核となります。
佐藤尚之氏(さとなお氏)は、大手広告会社でのクリエイティブ・ディレクター経験を経て独立し、現在は株式会社ファンベースカンパニーの取締役会長を務める傍ら、バーのカウンターに立ったり、災害支援活動に携わったりと、常に「生活者の現場」に立ち続けてきた人物です。そんな著者が、膨大なインプットと実践から導き出した予測は、抽象的な未来論ではなく、明日から取り組むべき具体的な戦略に満ちています。
全464ページという圧倒的なボリュームで語られるのは、単なるマーケティングのテクニックではありません。AIという巨大な波に飲み込まれるのではなく、それを乗りこなしながら、いかにして人間らしい「愛」と「信頼」のあるビジネスを築くかという、希望の物語でもあります。
生成AI時代の波の中で、自分のビジネスをどこへ向かわせるべきか。その答えを探しているすべてのビジネスパーソンにとって、本書はまさに「手放せない一冊」となるでしょう。
書籍情報
タイトル: 『AIに選ばれ、ファンに愛される。〜変わる生活者とこれからのマーケティング〜』
著者: 佐藤 尚之(さとなお)
発行: 株式会社 日経BP
発売日: 2025年12月22日(月)
価格: 2,000円(税別)
体裁: 四六判・464ページ
公式サイト(販売ページ): https://www.amazon.co.jp/dp/4296209841/
著者プロフィール
佐藤 尚之(さとなお)
コミュニケーション・ディレクター。大手広告会社を経て独立。(株)ファンベースカンパニー取締役会長。著書に『ファンベース』『明日の広告』など多数。生活者の変化をいち早く捉える視点に定評がある。