【異業種コラボ】なぜ老舗書店が魚を売る?今井書店が地元漁師と挑む「食」と「文化」の新しい物語

創業153年の山陰の老舗書店「今井書店」が、地元の若手漁師と組み、ECサイトで「物語のある魚」を販売開始。本を通じた文化発信と地域活性化を目指す異業種コラボの挑戦。魚と相性の良い本を提案するなど、書店ならではの視点で「食」と「文化」の新しい形を提案する。


山陰地方に根ざし、創業153年を迎える老舗書店「株式会社今井書店」(本社:松江市)が、驚くべき新事業をスタートさせた。なんと、地元の若手漁師たちとタッグを組み、EC通販サイトを通じて「とれたての魚」を全国に届けるというのだ。本を売る書店がなぜ魚を?この異色のコラボレーションの背景には、地域文化を支えたいという書店側の強い願いと、地元漁村の未来を持続可能にしたいと願う漁師たちの熱意が共鳴し合った「物語」があった。

本が紡ぐ「文化」と海が育む「食」の邂逅

今井書店が手を組んだのは、島根半島の漁師たちによるグループ「御津フィッシャーマンズファクトリ―」だ。彼らは、地元を持続可能な漁村にしようと常に知恵を絞り行動している。一方、今井書店はこれまで「本」という媒体を通じて地域の「物語」や「文化」を伝え、支えてきた。この二者が、地元を元気にしたいという共通の想いで一つになった。

今回の取り組みの核となるのは、「本屋だから届けたい“物語”のある魚」というコンセプトだ。ただ新鮮な魚を販売するのではない。朝早く漁に出る漁師たちの真摯な姿、季節の移り変わりとともに表情を変える海と魚たちの営み。それらすべてに宿る「海と人の物語」を、食品という形でお客様に届けることを目指している。

長きにわたり、人々に様々な物語を届けてきた老舗書店だからこそ、海と人にまつわる奥深い物語を「食」という新しい切り口で表現し、発信できると考えたのだ。

書店ならではのユニークな文化的提案

このプロジェクトが単なるEC事業に留まらないのは、老舗書店ならではの文化的提案が盛り込まれている点だ。サービス名も「本屋だから届けたい“物語”のある魚屋さん」として、その独自性を強調している。

主な特徴は以下の通りだ。

漁港から直送の魚加工品販売: 今井書店が運営するオンラインストアを通じて、新鮮な魚の加工品を販売する。漁港からお客様の元へダイレクトに届けられることで、鮮度と品質が保たれる。

「この魚に合うおすすめの一冊」の提案: 書店として培ってきた知識と感性を活かし、購入した魚と相性の良い書籍を提案する。食卓に上がった魚から連想される物語や知識を深め、食体験を豊かにする新しい試みだ。食卓と読書の時間を結びつける、ユニークな文化的提案となっている。

リアル書店での体験イベント: 2025年9月14日には、今井書店松江本店で「漬け丼」の試食・販売会が開催され、約70名の来店客で賑わった。同時に店内では関連書籍を集めたブックフェアも開催され、「食」と「本」の融合をリアルに体験できる場を提供し、大きな反響を呼んだ。

この取り組みは、地元漁業と地元老舗書店という異業種コラボレーションであり、地域の未来を「食」と「文化」の両面からつなぐ挑戦となる。

地域と未来をつなぐ、新しい形の文化発信

地方の書店が厳しい状況に置かれる中、今井書店は「本」という枠を超え、地域の食文化、そして第一次産業である漁業を支える役割を担い始めた。

「本」が持つ物語性を「食」に重ね合わせることで、消費者にとっても単なる食材の購入ではなく、海や漁師たちの生活、そして地域の歴史に思いを馳せる「文化的体験」へと昇華される。書店が文化の発信基地として、地域経済にも貢献していく新しいモデルケースとして注目される。

サービス「本屋だから届けたい“物語”のある魚屋さん」は、2025年9月25日に開始された。山陰の老舗書店から全国へ発信される、この心温まる「海と人の物語」に、今後も注目が集まりそうだ。


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