東京・神楽坂。石畳の路地や粋な店が並ぶこの街で、長年「本の街」としての側面を支えてきた建物が、新たな息吹を吹き込まれようとしています。
株式会社新潮社は、創業130周年記念事業の一環として、神楽坂に佇む同社の出版倉庫を美術・工芸のギャラリー棟「soko」へと改装し、2026年3月27日にグランドオープンすることを発表しました。
昭和の出版文化を支えた「巨大倉庫」の目覚め
今回ギャラリーへと変貌を遂げる「新潮社倉庫」は、1959年(昭和34年)に建てられたコンクリート造5階建ての建築です。当時は戦後の出版ブームの真っ只中にあり、約500万冊もの新刊を収蔵するために建設されました。
2023年には、その歴史的価値が認められ、昭和41年竣工の本館とともに「国登録有形文化財」に登録されています。かつては連日トラックが横付けされ、全国の書店へ本を送り出していたこの場所も、物流拠点の移転に伴い、約30年もの間「長い眠り」についていました。
この武骨で質実剛健な昭和の産業遺産が、今度は「本の中身を体験する場」として、再び人々に開かれることになります。
建築家・中村好文氏が手掛ける「大きな家の広間」
リノベーションの監修を務めたのは、住宅設計の名手として知られる建築家の中村好文氏です。
倉庫内部は、大量の本の荷重を支えるための太い梁や、当時の職人による丁寧な面取りが施されたコンクリートの質感がそのまま活かされています。新しくオープンする2階フロアは、まるで「大きな家の広間」のような温かみのあるデザイン。壁に並ぶ7つの扉の先には、それぞれ個性の異なるギャラリーが軒を連ねます。
無機質なコンクリートと、中村氏が作り出す親密な空間が融合し、訪れる者を物語の奥深くへと誘うような構成となっています。
伝説の美学を受け継ぐ「青花」と「坂田室」
「soko」の中核を担うのは、新潮社の「青花室」です。2014年に発足した「青花の会」を母体とし、雑誌『工芸青花』の刊行や、美術・工芸に関する講座やツアーを展開してきた同プロジェクトが、本拠地として活動を本格化させます。
特筆すべきは、同施設内に設けられた「坂田室」です。「古道具坂田」の店主であり、「なんともないものこそ美しい」という独自の美学で日本の工芸・骨董界に多大な影響を与えた故・坂田和實氏。彼の蒐集品を常設展示するこの場所は、工芸ファンにとって聖地のような存在になるでしょう。
個性豊かな7つのギャラリーが集結
2階フロアには、青花室の志に共鳴する7つのテナントが入居します。
工芸文化を振興するカフェ「Café Craftern」をはじめ、陶磁器、古美術、現代美術、あるいは書籍とアートを繋ぐショップなど、ジャンルを横断したラインナップが魅力です。
単なる「展示スペース」に留まらず、お茶を楽しみ、骨董に触れ、知を深める。神楽坂の坂の上に誕生する「soko」は、かつて本が詰まっていた空間に、今度は「美と心の豊かさ」を詰め込み、新しい時代の文化を積み上げていく拠点となりそうです。
■【施設概要】
名称: 新潮社倉庫 soko
住所: 東京都新宿区矢来町71(地下鉄東西線神楽坂駅から徒歩2分)
開廊日: 2026年3月27日(金)
開館時間: 11時〜20時(※ギャラリーにより異なる)
休館日: 毎月第3水曜日、年末年始等
公式サイト: https://www.shinchosha.co.jp/special/soko/