【3冠達成】『外務官僚たちの大東亜共栄圏』が大佛次郎論壇賞を受賞!エリートたちが陥った失敗の本質とは

熊本史雄・駒澤大学教授の著書『外務官僚たちの大東亜共栄圏』(新潮選書)が、第25回大佛次郎論壇賞を受賞しました。樫山純三賞、司馬遼太郎賞に続く「3冠」の快挙です。膨大な外交史料から、軍部ではなくエリート官僚の思考が招いた「失敗の本質」を炙り出した本作は、戦後80年を前に必読の論考として注目されています。


異例の「3冠」達成。歴史学の枠を超えて支持される一冊

2025年、日本の論壇に大きな衝撃を与えた一冊があります。駒澤大学教授・熊本史雄氏による『外務官僚たちの大東亜共栄圏』(新潮選書)です。

本書は、2025年12月24日に発表された「第25回 大佛次郎論壇賞」を受賞しました。すでに「第20回 樫山純三賞」および「第29回 司馬遼太郎賞」を受賞しており、今回の受賞で、性格の異なる3つの権威ある賞を総なめにする「3冠」という異例の快挙を成し遂げました。

国際政治や経済の視点から現代アジアを問う「樫山賞」、ノンフィクションや小説をも含む幅広い文学性を評価する「司馬賞」、そして日本の社会や文化をめぐる優れた論考を顕彰する「大佛次郎論壇賞」。これら3つの賞すべてに認められたことは、本書が単なる専門的な歴史書に留まらず、現代社会に生きる私たちが読むべき「普遍的な価値」を持っていることの証左といえるでしょう。

「無謀な構想」の主導者は、軍部だけではなかった

「大東亜共栄圏」という言葉から、多くの人が想起するのは軍部による独走や、右翼勢力による扇動ではないでしょうか。しかし、本書が鋭く切り込んだのは、当時の日本外交を担っていた知性あふれる「エリート官僚」たちの思考回路です。

著者の熊本氏は、外務省外交史料館での勤務経験も持つ日本近代史のスペシャリスト。本書では、日露戦争後の「満蒙」権益の獲得から、1943年の大東亜共同宣言に至るまでの約40年間にわたる膨大な外交史料を丹念に読み解いています。

そこで炙り出されたのは、小村寿太郎から幣原喜重郎、そして重光葵へと受け継がれていった、エリートたちの「秩序観」の変遷です。彼らは決して盲目的に戦争を望んでいたわけではありません。むしろ、国益を最大化しようと知略を巡らせ、刻々と変化する国際情勢に適応しようと必死に足掻いていました。

しかし、その「知性」こそが、かえって他国の主張や国際法規範を軽視させ、自国の安全保障を優先するあまり、結果として「無謀な秩序構想」へと突き進ませる要因となったのです。本書は、外務省の開戦責任という、これまで十分に光が当たってこなかった「失敗の本質」を浮き彫りにしています。

現代の日本にも通じる「外交感覚」の問い直し

選考委員たちからも、本書に対する絶賛の声が相次いでいます。

政治学者の杉田敦氏は、「自国の『安全保障』確保に向けて再び暴走を始めたかに見える日本で、今、読まれなければならない本である」と評し、社会学者の佐藤俊樹氏は、戦争へ至る道筋を丁寧に描き切った力量を称賛。また、論説主幹の佐藤武嗣氏は、米中対立の中で立ち位置を模索する現在の日本にとって、本書が大きな示唆を与えていると述べています。

著者である熊本氏は、受賞にあたり「本書の内容が大国のエゴイズムとナショナリズムが排他性を伴いぶつかり合う現代社会と、図らずも接合していた」とコメントしています。戦後80年という節目を前に、私たちはかつてのエリートたちが陥った陥穽(かんせい)を、過去の出来事として笑い飛ばせるでしょうか。

闘病の中で書き上げられた、命の論考

特筆すべきは、本書が著者の熊本氏がガンと闘う中で書き上げられたものであるということです。「上梓した時点で既に大いに満足していた」と語る熊本氏にとって、この受賞は「大きなご褒美」だったといいます。

その執念ともいえる緻密な史料調査に基づきながら、読者を一気に引き込む大河ドラマのような筆致は、専門家だけでなく多くの一般読者の心も掴みました。終章で問われる「慎慮」と「外交感覚」の重要性は、情報が溢れ、対立が激化する現代において、これまで以上に重みを増しています。

日本の近現代史を語る上で欠かせない、そして未来の日本のあり方を考えるための羅針盤となる一冊。この「3冠」の快挙をきっかけに、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

【書籍情報】

タイトル: 外務官僚たちの大東亜共栄圏

著者: 熊本史雄

出版社: 新潮社(新潮選書)

価格: 1,980円(税込)

受賞歴: 第25回大佛次郎論壇賞、第29回司馬遼太郎賞、第20回樫山純三賞

外務官僚たちの大東亜共栄圏 (新潮選書)

¥ 1,980

国際派エリートたちは、どこで道を間違えたのか?日露戦で満蒙権益を獲得した日本は、その維持を最重要課題として勢力拡張に舵を切る。だが国益追求に邁進する外務省は、次々と変化する情勢の中で誤算を重ね、窮地を打開するため無謀な秩序構想を練り上げていく。小村寿太郎から幣原喜重郎、重光葵まで、国際派エリートたちが陥った「失敗の本質」を外交史料から炙り出す。


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