出版不況が叫ばれる昨今、本を「作る」だけでなく、いかに「届ける」かが大きな課題となっています。そんな中、独自の棚作りやマニアックな品揃えで知られる「書泉」および「芳林堂書店」を運営する株式会社書泉が、クリエイティブ教育の最高峰「デジタルハリウッド」とタッグを組み、新たな挑戦をスタートさせました。

今回のプロジェクトの対象となるのは、書泉自社レーベルから刊行されている短編小説『フィフス』および『フィフス2』（著：飛鳥部勝則）。デジタルハリウッド大学の学部生やデジタルハリウッドのスクール生たちが、本気でこの本を売るためのマーケティング戦略を練り、実際にプロモーションを展開するという、実践型の「企業ゼミ」プロジェクトです。

プロジェクトの核となる『フィフス』は、もともと2010年に『このミステリーがすごい！』大賞の関連誌で発表された、知る人ぞ知る名作です。長らく単行本化が待たれていましたが、芳林堂書店の復刊企画「芳林堂書店と、10冊」をきっかけに、2024年に待望のシリーズ化を果たしました。

物語の舞台は、怪異と理知が交差する幻想的な世界。 “木人”と呼ばれる存在を殲滅する使命を帯びた女子高生・蘭冷（らんれい）と、その「奴隷」である大学生・鈴森一気を中心に、血みどろの凄惨さと軽快なエンターテインメント性が同居する独特の世界観が描かれます。

その中毒性の高い内容は、熱心な読者の支持を集め、すでに『フィフス』は2,065冊、『フィフス2』は653冊を販売。書泉・芳林堂書店の「2025年ベストセラー 総合第8位／文庫部門第1位」に輝くなど、書店発のヒット作として注目を集めています。

今回のプロジェクトの最大の特徴は、単なるアイデア出しに留まらず、学生たちが「本物の素材」を使って、実際のビジネスシーンで成果を競う点にあります。

著者・飛鳥部勝則氏と装画を担当する鈴木康士氏の全面協力のもと、学生たちは本文、表紙イラスト、ロゴなどを活用して自由な発想で販促プランを立案。動画制作、SNSキャンペーン、キャラクターをフックにした訴求など、デジタルネイティブ世代ならではの感性で、2026年1月の1か月間にわたりプロモーションを順次実行します。

目標として掲げられたのは「シリーズ合計500冊の販売」。すでに一定のヒットを記録している作品をさらに伸ばすという、プロにとっても難易度の高いミッションに対し、学生たちがどのような「売り方」を提示するのか、業界内からも期待が寄せられています。

プロジェクトの締めくくりとして、2026年2月1日（日）には芳林堂書店 高田馬場店にて「フィフス ファンフェスティバル2026」の開催が決定しました。

このイベントでは、著者・飛鳥部氏とイラストレーター・鈴木氏による、制作の裏側や作品の核心に迫るスペシャルトークショーが行われるほか、学生たちによるプロジェクトの成果報告と表彰式も実施されます。最も優れた企画には、著者らの名を冠した「飛鳥部賞」「鈴木賞」が授与される予定です。

どの施策が実際に購入に繋がったのかというデータ検証の結果は、今後の出版・書店ビジネスにおける貴重なケーススタディとなるでしょう。

書泉×デジタルハリウッドによるこの取り組みは、単なるプロモーションの域を超え、未来のクリエイターやマーケターたちが「リアルの本」という商材と向き合い、その価値を最大化させるための実験の場でもあります。

「本屋が創り、学生が広める」というこの新しい循環が、出版界にどのような新風を吹き込むのか。2026年1月、学生たちの情熱と『フィフス』の奇妙な魅力が融合する1か月に注目です。

タイトル：『フィフス』『フィフス2』

著者：飛鳥部勝則

イラスト：鈴木康士

発行：株式会社書泉

名称：「フィフス」ファンフェスティバル2026

日時：2026年2月1日（日）

会場：芳林堂書店 高田馬場店 8Fイベントスペース