出版不況と言われて久しい昨今ですが、その現状を裏付ける最新のデータが公開されました。日本出版販売株式会社(日販)は、2025年12月22日、出版市場の構造変化を浮き彫りにする統計資料「出版物販売額の実態 2025」および「書店経営指標 2025年版」を発行。そこには、リアル書店の苦境と、デジタルシフトが加速する市場の姿が克明に描かれています。
リアル書店の販売額・店舗数ともに減少傾向が継続
今回の報告で最も注目すべきは、2024年度の「書店ルート」の推定販売額です。その額は7,371億円となり、前年比で95.2%にとどまりました。これに呼応するように、書店店舗数も7,270店(前年比95.4%)へと減少。街の書店が姿を消し続けている現状が改めて浮き彫りとなっています。
かつて出版物販売の主軸であったリアル書店の衰退は、単なる購買行動の変化だけでなく、文化的な拠点の喪失という課題も孕んでいます。インターネットルートの販売額も2,737億円(前年比96.5%)と、これまでの成長にブレーキがかかっている点は興味深いポイントです。オンラインでの紙の本の購入も、一定の飽和状態にある可能性を示唆しています。
唯一の成長株は「電子出版物」
苦戦が続く紙の媒体に対し、唯一ポジティブな数字を残しているのが電子出版市場です。電子出版物の推定販売額は7,356億円となり、前年比102.9%と着実に成長を続けています。
特筆すべきは、リアル書店ルートの販売額(7,371億円)と、電子出版物の販売額(7,356億円)がほぼ同水準に並んだ点です。これは、出版市場における「主役」が、物理的な紙の媒体からデジタルデータへと完全に移り変わりつつある象徴的な瞬間と言えるでしょう。コミックを中心としたデジタル消費の定着が、市場全体を下支えしている構図が見て取れます。
書店経営の「薄氷の収益構造」が明らかに
同時発行された「書店経営指標 2025年版」では、書店の現場が抱える深刻な収益構造も明らかになりました。全国65企業564店舗の調査に基づいたデータによると、書店の営業利益率はわずか0.4%という極めて厳しい状況にあります。
売上総利益率は28.5%と一定の水準を保っているものの、人件費や光熱費、物流コストの上昇が経営を圧迫。わずか1%に満たない利益率で運営を続けているという実態は、不測の事態があれば容易に赤字へ転落しかねない「薄氷の経営」であることを示しています。
出版流通の未来:問われる「書店の価値」
今回の調査結果は、これまでの「作れば売れる」「店を構えれば客が来る」というビジネスモデルが、もはや限界に達していることを示しています。電子書籍の利便性が浸透し、インターネットでの情報取得が当たり前となった現代において、リアル書店はどのような価値を提供すべきなのか。
日販は、こうした統計資料を通じて業界の現状を可視化することで、出版流通の最適化や書店の新業態開発に向けた議論を活性化させる狙いがあります。本を売る場所としての役割だけでなく、コミュニティの創出や、体験型消費との掛け合わせなど、これからの「書店」には抜本的なパラダイムシフトが求められています。
日本の出版文化を支えてきた流通構造が大きな曲がり角を迎える中、今回のデータは業界関係者のみならず、本を愛するすべての読者にとっても、市場の未来を考えるための極めて重要な指針となるでしょう。
資料情報
資料名: 「出版物販売額の実態 2025」「書店経営指標 2025年版 No.63」
発行日: 2025年12月22日(月)
発行元: 日本出版販売株式会社
購入先: インターネット書店「Honya Club.com」
その他商材/業界資料:オンライン書店Honya Club com
https://www.honyaclub.com/shop/c/c09N0/オンライン書店 Honya Club.com業界資料のページです。
公式サイト: http://www.nippan.co.jp/
私たち日本出版販売株式会社(日販)は、1949(昭和24)年の創業以来、書籍・雑誌の流通を担う出版販売会社(出版取次)として、文化の普及発展に貢献すべく、不断の努力を続けてまいりました。現在では国内最大規模の出版販売会社としての地位を確固たるものとしております。