私たちの生活に身近な書店「丸善」。その礎を築いた一人の男をご存知でしょうか？

丸善雄松堂株式会社、株式会社丸善ジュンク堂書店、丸善出版株式会社の3社は、共通の創業者である**早矢仕有的（はやし・ゆうてき、1837-1901）の没後125周年を記念し、2026年1月2日（金）より丸善・丸の内本店にて『「丸善」を創った男 早矢仕有的 資料展 ～福澤諭吉とともに日本の近代化に尽くした医師～』**を開催します。

本展は、医師でありながら実業家として明治日本を駆け抜けた早矢仕有的の、初となる本格的な正伝資料展です。普段は一般公開されていない貴重な資料が一堂に会し、日本の近代化における「知」のインフラがいかにして作られたのかを紐解きます。

早矢仕有的は、単なる書店経営者ではありませんでした。彼はもともと医師であり、その人生を大きく変えたのが慶應義塾の創設者・福澤諭吉との出会いです。

今回の展示における目玉の一つである「九鬼隆義宛書簡」（慶應義塾図書館所蔵）には、明治3年に福澤諭吉が腸チフスで重体となった際、早矢仕有的が西洋人医師らと共に懸命な治療にあたった様子が記されています。福澤は書簡の中で、早矢仕の治療を「専ら苦心いたし呉先づ日本では最上の治療」と評しており、二人の間に深い信頼関係があったことが窺えます。

この出会いをきっかけに、早矢仕は福澤とともに、西洋の知識や文物を日本に導入する事業へと乗り出していくことになります。

本展では、早矢仕有的がいかにして日本のビジネスモデルを革新したかを示す、歴史的資料も公開されます。

『丸屋商社之記』（明治6年復刻版）は、日本初の会社設立趣意書として知られる資料です。商社組織を、資本を出す「元金社中（株主）」と実務を行う「働社中（社員）」に分けた画期的なシステムは、日本の株式会社組織の原点と評価されています。この起草者が福澤なのか早矢仕なのか、あるいは合作なのか、未だ議論が続く謎多き資料でもあります。

また、福澤諭吉が翻訳し丸善（当時は丸屋商社）が出版した**『帳合之法（ちょうあいのほう）』**も必見です。これは日本初の西洋式複式簿記のテキストであり、出版当時、丸屋商社の店内ではこのテキストを用いた有料講習会が開かれていました。丸善が単に物を売るだけでなく、新しい知識や技術を普及させる「学びの場」として機能していたことを示す象徴的なエピソードです。

丸善の歴史は順風満帆なだけではありませんでした。展示される**『改正増補和英英和語林集成 第三版』**（1887年）には、企業の存続をかけたドラマが隠されています。

当時、丸善は関連銀行の破綻により再建中の身でした。しかし、編著者であるヘボン博士（医師でもあり早矢仕とも縁がありました）から辞書の版権譲渡の話が持ち上がると、経営陣は迷わず版権買取を決断します。結果としてこの辞書は大ヒットし、丸善の出版事業を支える柱となりました。目先の利益よりも文化的価値や将来性を見抜く、丸善の「知」への情熱が感じられる展示品です。

資料展をより深く楽しむためのイベントも充実しています。期間中は、専門家による講演会や、展示品を解説付きで巡るギャラリートークが開催されます（要事前予約）。

慶應義塾福澤研究センター教授の都倉武之氏が、未解明な部分も多い二人の複雑な関係を考察します。

近代出版研究所所長の小林昌樹氏が、書店の歴史や「立ち読み」の文化史を紐解きながら、丸善の成り立ちを語ります。

明治大学教授の佐々木聡氏と元丸善株式会社の原田幸四郎氏が、幕末・維新期の起業家たちと早矢仕の共通項を探ります。

2026年の幕開けは、丸善・丸の内本店で、日本の近代化を「本」と「医療」と「ビジネス」で支えた男、早矢仕有的の熱い生涯に触れてみてはいかがでしょうか。

イベント名： 没後125周年 初の正伝 「丸善」を創った男 早矢仕有的 資料展

会期： 2026年1月2日(金)～1月13日(火)

時間： 9:00～21:00（1月2日は19:00閉場、最終日は15:00閉場）

会場： 丸善・丸の内本店 4階ギャラリー（東京都千代田区丸の内1-6-4 丸の内オアゾ内）

入場料： 無料

主催： 丸善雄松堂株式会社、株式会社丸善ジュンク堂書店、丸善出版株式会社

予約・詳細： 講演会・ギャラリートークは2025年12月1日(月)より予約開始（丸善丸の内本店4階ギャラリー受付または電話にて）

特設サイト： https://www.maruzenjunkudo.co.jp/pages/hayashiyuteki2026